(1)夫婦の財産関係
ア 民法上の制度
法律上定められている夫婦の財産制度は、①婚姻費用の分担、②日常家事債務の連帯責任、③夫婦別産制があります。
夫婦の財産制度
①婚姻費用の分担
夫婦は,婚姻共同生活を維持するための費用については,それぞれの資産,収入,その他一切の事情を考慮して分担すべきという制度です。
②日常家事債務の連帯責任
婚姻生活を維持するための費用については,夫婦で分担するという制度です。食料や衣服等の日常生活に必要な費用(日常家事債務)については,夫婦の連帯責任となります。
③夫婦別産制
夫婦の一方が婚姻前に取得した財産は,婚姻後もその人のものです。
同じく,婚姻中に夫婦の一方が自己の名義で取得した財産(特有財産。例えば,親からの相続や贈与により取得した財産)は,その人の財産であり,他人がその財産について権利を取得することはありません(夫婦別産制)。
なお,婚姻後の夫婦の財産関係については,婚姻前IN当事者間で合意することができます(夫婦財産契約。民法755条)。
イ 夫婦の共有財産
家庭裁判所の実務では、共同生活をしている夫婦が婚姻中に形成した財産は、原則として夫婦が協力して形成したものであり、財産形成に対する寄与の程度は夫婦平等であるとしています。これは、夫が稼働し、妻が専業主婦である場合も変わりません。そのため、夫婦が婚姻中に形成した財産は、名義が夫婦の一方であったとしても、実質的には夫婦の共有財産であり、離婚時に清算の対象となります。
夫婦の共有財産にあたる例
入籍後に得た夫の収益(給与)で土地を購入し、登記名義が夫であっても、これは夫婦が協力して形成した財産になるので、離婚時に清算の対象となります。
このような財産として、土地建物のほか、自動車、預貯金、生命保険、株式等が含まれます。
(2)財産分与の方法
財産分与請求とは、婚姻中に形成した財産の清算や離婚後の扶養等を処理する手続きをいいます。財産分与の額や方法をどのようにするかは、当事者間の協議で決めるのが原則です(民法768条1項)。
しかし、当事者間で協議してもまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判の申し立てをすることができます。
また、離婚調停において、財産分与の合意をすることもできます。
離婚訴訟の場合には、付帯処分の申し立てに基づき、裁判所が財産分与に関する裁判をします。
なお、財産分与の審判の申し立ては、離婚後、2年以内にしなければなりません。もっとも、協議による財産分与請求については、離婚後2年が経過しても行うことができます。
(3)財産分与の内容
財産分与には、①夫婦共有財産の清算、②離婚後の扶養、③離婚に伴う慰謝料、④未払婚姻費用の清算が含まれます。もっとも、実際に考慮されるのは、①の清算的要素がほとんどです。
①清算的要素について
ア.財産分与の対象財産
夫婦が婚姻中に形成した財産は、原則として、相互に2分の1の権利を有することになります。これは、夫が稼働し、妻が専業主婦である場合も変わりません。そのため、夫婦が婚姻中に形成した財産は、名義が夫婦の一方であったとしても、実質的には夫婦の共有財産であり、離婚時に清算の対象となります。もっとも、夫(又は妻)が芸術家、発明家等の特別の能力により収入を経ているなどの場合には、2分の1以下の権利になることもあります。
清算的財産分与の対象財産は、婚姻共同生活の解消時点に存在する財産(土地建物のほか、自動車、預貯金、生命保険、株式等)になります。そのため、婚姻共同生活が解消した時点において、財産分与の対象財産がなければ、財産分与請求権は生じません。夫婦が別居している場合、別居後は夫婦が協力して財産を形成する状況にないため、財産分与の対象財産は、別居の時に存在した財産になります。
対象財産の特定については、夫婦の双方の預金通帳、不動産の登記簿謄本、株式等の取引明細書を提出させて、財産の取得時期や経緯などを調べて行います。
イ.財産評価の基準時
財産評価の基準時は、預貯金や保険の解約返戻金の場合は、別居時の評価額になります。例えば、預貯金の額が別居時に1000万円であれば、離婚時に500万円となっていても、評価額は1000万円になります。
ウ.財産の調査
当事者名義の銀行預金等があるにもかかわらず当事者が開示しない場合は、弁護士会による照会手続きや家庭裁判所の調査嘱託手続き等により銀行等に調査を依頼することができます。もっとも、金融機関が特定されていないと、これらの手続き行うことはできません。
また、財産分与の対象財産について、もっと財産があるはずというような争いが生じた場合は、それを主張する者が、対象財産が存在する資料を示して説明する必要があります。財産分与の対象となるのは、具体的な財産であるため、存在するかどうか分からない財産を対象財産とすることはできません。
エ.離婚時に積極財産がない場合
積極財産とは、財産分与の対象となる不動産や預貯金等のプラスとなる財産をいいます。
離婚時(又は別居時)に積極財産がなく、夫婦が婚姻生活を営むために負った債務しかない場合には、清算できる対象財産がないとして、財産分与請求はできません。
積極財産と債務の両方がある場合には、積極財産の評価額から債務を控除して、プラスとなれば財産分与請求ができます。逆に、マイナスとなれば、積極財産がないとして、財産分与請求はできません。
オ.住宅ローンの問題
夫婦が婚姻期間中にマンション等の不動産を取得した場合には、不動産の名義が夫又は妻のどちらであっても、その不動産は夫婦の共有財産となります。そのため、不動産の購入代金債務(住宅ローン)についても、住宅ローンの名義がどちらであっても、夫婦が平等に負担することになります。ただし、銀行等の第三者との関係については、住宅ローンの名義人が債務を負うことになります。
夫婦の共有財産にあたる例
入籍後に得た夫の収益(給与)で土地を購入し、登記名義が夫であっても、これは夫婦が協力して形成した財産になるので、離婚時に清算の対象となります。
このような財産として、土地建物のほか、自動車、預貯金、生命保険、株式等が含まれます。
②離婚後の扶養について
夫婦が離婚すると、夫婦間の同居扶助義務と婚姻費用分担義務が消滅するので、原則として、離婚後の生活費等の負担義務はありません。そのため、専業で家事や育児を行っていた妻(又は夫)は、離婚すると生活に困窮してしまうことになります。このような場合は、公平性を欠くため、仕事等をしている夫(又は妻)は、妻(又は夫)に対し、離婚後、経済的に自立できるまでの間の生活費を財産分与として負担させるべきという考えがあります。これを扶養的財産分与といいます。
実務においてはあまり主張されることはありませんが、離婚した夫婦に明らかな経済的格差がある場合に扶養的財産分与を認めることがあります。扶養的財産分与を行うことが相当と認められる場合には、離婚後1年から3年間程度の婚姻費用相当額が認められることがあります。
もっとも、清算的財産分与や離婚に伴う慰謝料がある程度の額に達するのであれば、離婚後の生活が一応確保できることになるため、扶養的財産分与を認める必要はないとされる傾向にあります。
③離婚に伴う慰謝料について
婚姻関係の破綻原因を作った夫(又は妻)は、妻(又は夫)に対して、慰謝料の支払義務を負います(離婚に伴う慰謝料)。
財産分与において考慮されるべき事情の中には、慰謝料支払義務の発生原因となる事情も含まれているので、財産分与に離婚慰謝料も含まれます。財産分与として離婚慰謝料を請求する場合には、離婚慰謝料を請求することを明示する必要があります。
④未払い婚姻費用の清算について
過去の未払婚姻費用は、財産分与の額や方法を定める際に考慮することができます。未払婚姻費用の額は、婚姻費用の分担額を算定する算定方式により行われます。
(4)弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所の解決事例
1 相手方が財産を開示せず、財産分与を求めたが一切支払いをしないと主張するため、調停手続きの中で全て財産を開示した上で、適正な財産分与額を取得した事例
2 オーバーローンの住宅について、双方が不動産の取得を希望しない事例において、調停にて話し合いを重ね、双方当事者の希望によって他方当事者が取得するという形で解決した事例
(5)よくある相談例
・夫の財産がどれくらいあるのかわからない。
・妻が財産をかくしており、どれくらいあるのかわからない。
・オーバーローンの不動産をどのように分与すべきでしょうか。
・夫が一切財産を開示しないため、財産分与を求めているが、一向に話し合が進まない。
(6)弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所長崎オフィスの取り組み
婚姻後に得た財産は、相続や贈与等により取得した財産でない限り、基本的には夫婦の共有財産であるとされます。共有財産は、2分の1の割合で財産を分与するのが原則です。しかし、様々な理由から実際には財産分与が適正に行われていないケースがあります。
自己の財産をしっかりと守るべく、十分な調査を行い、相手方に対し、財産分与を求める必要があります。
財産分与では、保険の解約返戻金や退職金等も含まれるなど幅広く、また状況に応じて異なるものがあるため、財産分与の対象となるかどうか迷った場合には、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
自己の財産を守り、適正な財産分与がなされることを目指します。
財産分与でお悩みの方は、まずは当事務所長崎オフィスまでご連絡下さい。